一過性脳虚血発作

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兵薬界 No.566,2003年03月号
2003年 03月 01日
  Aさん(55歳)は、家族に朝の挨拶を言おうとして言葉が出なくなった。“どうしたんだろう”と焦っているうちに、3?4分で症状は消えた。翌朝は30分経っても症状は治まらず、夫人が呼びかけても反応がないので、国立循環器病センターを受診した。重い脳梗塞だった。左半身麻痺は改善せず、現在も失語の状態が続いている。

  一過性脳虚血発作の原因は動脈硬化にある。酸素や栄養分を含んだ血液を体内に運んでいる動脈は、元々弾力に富むものだが、加齢と共に弾力はなくなる。同時に血管壁も厚くなって内腔が狭くなる。動脈硬化だ。

  一過性脳虚血発作の起こるメカニズムは、大きく3つに分かれる。

  微小塞栓とは、動脈硬化を起こした血管は内腔の楓ハが凹凸しているため、血小板が付着しやすく、やがて血栓が形成されてゆく。その血栓の極小さいものが剥がれ、血液に乗って脳まで流れて行くと、脳の細い血管を塞いでしまう。しかし、これらの血栓は防御反応によってすぐ溶かされているので、血流が途絶えるのは一時的なもので終わる。

  脳血管不全というのは、元々脳動脈自体に重い狭窄があって、その上に血圧が下がったり、脱水状態に陥ったりすると症状が出る。

  心原性塞栓は、心臓に出来た血栓が脳の血管に流れて行くことが原因。心房細動は左心房に血液がよどんで血液が固まりやすくなる。出来た血栓は剥がれて脳へ行く。心房細動は心原性塞栓の原因の約半数を占めている。

  代蕪Iな症状は、「半身の運動障害や感覚障害」である。つまり、「梗塞を起こした脳動脈とは反対側の手足が動かなくなったり、痺れてペンを落としたりする」「皮膚の感覚がなくなる」「片方の目が見えなくなる」の症状や、Aさんのように言葉の異常も出てくる。「めまい、ふらふらする」も多くの人に見られる。複数の症状が同時かズレて起きることもある。

  「脳梗塞と殆ど同じではないか」という感想を持つかも知れないが、その通りで、違うのは、一過性脳虚血発作の場合には、最長でも24時間以内に症状は治まり、特に数分のうちに治まることが多い。従って、一過性脳虚血発作と脳梗塞は別の病気ではなく連続性がある。1回でも発作を起こしたということは、既に脳梗塞を起こしやすい血管の状態で、適切な治療が望まれる。

文献・山口ら・NHK きょうの健康 No.137(1999)

文責:大平 洋

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