手根管症候群

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兵薬界 No.566,2003年03月号
2003年 03月 01日
  手の指に痺れ(しびれ)が起こる病気に「手根管症候群」がある。女性に多く、急性期には痛みも起こる。進行すると細かい作業が出来なくなる。典型的な症状は、「親指、人差し指、中指および薬指の中指寄り半分(いずれも掌側)に起こる痺れ」である。初期には、中指だけの痺れや全ての指の痺れのケースも少なくない。

  急性期には強い痛みが起こる。夜中から朝方にかけて、手指に強い痛みや痺れが起こり、目を覚ますこともある(夜間痛)。この場合は、手を振ったり指の曲げ伸ばしをすると楽になる。また、手指の感覚がなくなったり(知覚異常)、朝方に指がこわばることもある。慢性化すると痛みはなくなり痺れは残る。

  進行すると親指の付け根の筋肉が痩せてくる。こうなると、親指の先と人差し指を合わせて丸を作ろうとしてもスムーズに出来ない。これは、親指の付け根の筋肉が痩せたために、親指と他の指と向き合わせる働き(母指の対立運動)が上手くいかなくなるからだ。その結果、「裁縫が上手く出来ない、細かい物が掴み難い」といった日常生活の支障が生じてくる。

  手根管症候群の原因には、大きく分けて「手根管の内容物の増加」「手根管自体の狭窄」「神経が傷付きやすい」の3つがある。

  内容物の増加は、妊娠・出産期や更年期の女性に多いため、ホルモンのバランスの乱れによって、手根管をとおる屈筋腱の周りの腱鞘が腫れ、内圧が高まることで、正中神経が圧迫されると考えられている。仕事やスポーツなどによる手の使い過ぎで、正中神経が圧迫されることもある。

  正中神経の感受性が高まっていると、ちょっとした圧迫でも神経が傷付きやすくなる。神経の感受性が高まる原因として、糖尿病や甲状腺の病気があると、少しの圧迫でも痺れなどが起こる。

  典型的な症状があれば、比較的容易に診断がつく。また、チネル様サインといって、神経の障害された部分を叩くと、その神経が支配する部位に痛みが走る。手根管症候群の場合は、掌の付け根を叩いて、痺れや痛みが指先に響くか調べる。更に手首を曲げて両手の甲をくっ付けて1分間保つファーレンテストも行われる。

  治療は、患部の安静や薬物による保存的療法が中心となる。まずは、必要以上に手を使わないようにする。腱鞘炎などの手の使い過ぎが原因の場合は、特に安静を保つことが大切で、添え木を当てて固定し、安静を保つ。急性期で夜に手指の痛みが強い場合は、寝る前に手指に包帯を巻くとかなり和らぐ。

  また、手を下げていると、手の末梢血管がうっ血して、手根管の内圧が強くなり、症状が強くなる。そのため、時々手を意識的に上に挙げて、うっ血が起こらないようにする。

  薬物療法では、消炎鎮痛薬やビタミン剤などを服用する。また、手根管内にステロイド剤を注射し、炎症を和らげる治療もある。糖尿病や甲状腺の病気など、手根管症候群の原因となる他の病気がある場合は、勿論それらの治療も必要となる。保存的療法は3ヶ月ほど継続し、多くは改善する。専門家は内圧を下げるため、約10秒間、手を上に挙げさす。それを1日50回くらい行うことを勧めている。

文献・堀内・NHK きょうの健康 No.135(1999)

文責:大平 洋

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Hyogo Pharmaceutical Society 兵庫県薬剤師会

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