糖尿病性神経障害

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兵薬界 No.567,2003年04月号
2003年 04月 01日
  糖尿病性神経障害は高血糖状態の長期持続が原因で、主に自律神経を含めた末梢神経が侵されて発症し、「手足のしびれ、痛み、立ちくらみ、発汗異常、下痢や便秘、排尿障害」をはじめとして、全身に様々な症状が出現する。一般的には、糖尿病患者の約40%も併発している。

  従来、糖尿病性神経障害は死に至らないとされていたが、最近「突然死」の一因が心血管系自律障害によることが明らかにされたり、放置しておくと足に「壊疽」を引き起こし、患部に感染症を伴って、重篤化すれば足趾切断を強いられる。激しい四肢の痛みが安眠を妨げ、「うつ状態」に陥らせるなど、QOLを低下させる深刻な合併症である。

  神経は、脳および脊髄からなる中枢神経と、枝分かれした末梢神経に大別される。糖尿病性神経障害は、主に末梢神経が侵されるために発症する。

  この末梢神経には、痛み、触覚、熱さなどを感じる知覚神経、手足や顔などの動きを調節している運動神経、そして瞳孔、発汗、内臓などの動きやホルモン分泌を調節している自律神経の3種類がある。糖尿病患者にあっては、上述の神経が侵され、各々の働きが円滑に行われなくなる。

  メカニズムについては色々の仮説が唱えられている。代謝性因子で注目されているのが、ポリオール経路の活性亢進で生じたャ泣rトール産生過剰をはじめとした諸代謝変化が神経細胞を正常に機狽ウせなくし、糖尿病性神経障害を引き起こす。

  糖尿病性神経障害として多いものの一つとして多発性神経障害があり、以下の症状がある。

1.異常感覚(手や足の先がジンジンと痺れたり冷たい)
2.感覚鈍麻(触った感じがはっきりしなかったり、足の裏に薄紙が一枚張り付いたような感じ)
3.疼痛(手足に灼熱様の痛み、刺すような痛み、圧迫されるような痛み)
4.こむら返り(安静時でも) など

  1.から3.の症状は下肢に起こりやすく、手先より肘に向かって、足先より膝に向かって広がっていく。左右対称性に同時に出現。

  神経障害の恐ろしさは、以下のとおりである。

1.血糖コントロールの不安定
2.無自覚性低血糖
3.無痛性心筋梗塞
4.突然死
5.うつ病 である。

  糖尿病性神経障害の発見の多くは自覚症状によるもので、すぐ主治医に相談することが必要である。

  日常汎用されている検査は、打腱器を用いた腱反射テストや音叉計を用いた振動覚検査などがある。

  初期の軽症状態であれば、生活習慣の是正などにより危険因子を少しでも減らしたり、薬物療法を用いたりして、良好な血糖コントロールを維持することで、神経障害の進行を抑えたり正常に回復させることが可狽ナある。目標とする血糖コントロール状態は、少なくともHbA1cを7%以下に維持する。

  薬物療法においては特効薬がないのが現状だが、上手に用いれば改善が期待出来る。アルドース還元酵素阻害薬は、高血糖に基づく代謝異常を是正して血流をよくしたり、神経細胞の働きが侵害されるのを防いだり改善させたりする経口薬がある。とりわけ初期変化に効果の強い薬である。

  プロスタグランジンE1製剤は、神経細胞に酵素や栄養を供給している細い血管を広げ、血流をよくすることで、神経細胞を回復させる薬である。

  糖尿病罹病期間が長くなると立ちくらみが起こりやすいので、ゆっくり立ち上がったり長風呂を慎む。

文献・堀田・からだの科学 増刊(2001)

文責:大平 洋

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Hyogo Pharmaceutical Society 兵庫県薬剤師会

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