溢流性尿失禁

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兵薬界 No.568,2003年05月号
2003年 05月 01日
  「尿失禁は、客観的に証明出来る不随意の尿漏出で、日常生活でも衛生的にも支障を来すものである」と、国際尿禁制学会が定義している。泌尿器科医にとっても尿失禁は従来、関心の薄い疾患であったが、近年の老年人口の爆発的増加により、速やかに対処しなければならない重大な疾患となり、過去10年間で治療法、対処法や対策用品は飛躍的に進歩した。

  尿失禁は、「溢流性」「機柏ォ」「切迫性」「腹圧性」の4つに分類すると理解が容易である。尿失禁は泌尿器科疾患とされるが、本態は全身疾患である。

  「機柏ォ」は、知覚、運動、精神機狽フ障害が主原因である。

  「切迫性」は、加齢・脳血管疾患と風煦齣フの関係である。

  「腹圧性」は、出産・加齢・閉経の結果である。

  「溢流性」の原因精査で糖尿病が診断されることもあり、尿失禁の責任病巣は下部尿路に留まらず全身に存在する。治療助ェな成果をあげるには、泌尿器科医のみならず内科医、婦人科医、整形外科医、リハビリ科医、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、ケアマネージャー等の協力が不可欠である。

  「溢流性尿失禁」は、尿排出障害末期の臨床症状で、生命破綻の前兆であり、早期診断が不可欠である。「溢流」とは「溢れ流れる(あふれながれる)」という意味で、「大量の残尿」が特徴である。

  診断には、大量の残尿を証明することに尽きる。残尿量測定にはカテーテルを用いての導尿は必須ではなくて、超音波で膀胱を観察し推定出来る。

  残尿は前立腺肥大症による排尿筋収縮力低下などで尿排出機狽ェ低下して出現するが、50mL 以下は無視出来る。しかし、残尿が 150mL を超えると、実質的膀胱容量の減少と尿路感染の危険が増大する。更に病態が悪化・施行すると、排尿筋弛緩による低圧蓄尿が不可狽ニなり、膀胱周囲組織の圧迫も加わり、膀胱内圧が上昇する。

  この段階では尿管より流入する尿は高圧となり、水腎症、膀胱尿管逆流を合併するようになる。膀胱内圧が尿道内圧を上回った一瞬だけ少量の尿が排出され、頻回の失禁となる。腹圧のかかる動作でも失禁するため、腹圧性尿失禁と似た臨床症状を呈する。この状態で細菌が尿路に侵入すると難治性複雑性尿路感染症となり、容易に腎盂腎炎、敗血症まで進行するため、残尿検査は重要である。

  「溢流性」まで進行した病態では、α1遮断剤や副交感刺激剤は殆ど無効で、カテーテルで残尿排出を行う。カテーテルは留置法よりも間欠導尿法が優れ、可狽ネ限り清潔間欠自己導尿を選択する。この方法は残尿を完全に排除し、尿路の荒廃を抑制し、尿排出機狽

文献・鈴木・診断と治療 Vol.90,No.7(2000)

文責:大平 洋

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Hyogo Pharmaceutical Society 兵庫県薬剤師会

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