躁状態

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兵薬界 No.580,2004年05月号
2004年 05月 01日
 躁状態は病的な爽快気分を基盤として、多動、多弁、興奮、誇大的思想や観念奔逸などの症状を示す状態で、躁病の際に最も典型的にみられる。


 躁状態では、患者は楽天的・爽快・明朗で自信に溢れ、自分の地位や才能、財産などを全て過大に評価宣言し、一方で他人の考えや行動に過度に干渉して自己の考えを無遠慮に主張して押し付ける。個々の話題については支離滅裂にはならないが、話題が転々とするので全体としてまとまらない。


 朝早く目が覚め、夜は遅くまで起きていても疲れない。楽天的な見通しを立てて仕事に着手し浪費が起こる。他人から見ると無軌道な行動に対しても羞恥心や反省がない。食欲や性欲は一般的に亢進し、寒さに対する抵抗も強くなる。


 病気の初期には爽快気分が著明であるが、間もなく周囲の人々と摩擦を起こし、不機嫌で怒りっぽく、攻撃的になることが多い。家族、友人、医師などに悪口雑言の限りをつくし、時には暴力行為に及ぶことさえある。


 従来わが国では、このような躁病性の精神運動興奮を統合失調症の衝動行為と誤診されることがかなり多かったのではないかと思われる。病識のない躁病患者がいきなり強制的に医療の対象とされれば、攻撃的になるのはむしろ当然で、これらの症状には感情移入が可能である。躁病では一次性の関係被害妄想、作為体験、幻聴などがみられない。


 躁状態は躁病の他に多発性脳梗塞、進行麻痺、慢性脳炎のような脳器質疾患や甲状腺機能亢進症、ステロイド投与時などにもみられる。もともと軽躁的な性格を示す発揚性の人格障害の人もいる。他人にさほど大きい迷惑をかけない軽躁状態は、外来治療が可狽ナある


 躁状態の既往のある人は、自ら医師を受診することも少なくない。リチウムの導入で、きちんと服薬すれば1?2週間で完全に正常に復することもある。しかし、一般に患者が医師の前に現れるのは、家族や友人が患者の言動に困り抜いた結果であることが多く、外来治療では服薬も不確実で治療が上手く進まない。既往に躁状態を反復しており、通院・服薬が不確実と予想される場合や、躁状態が改善の方向に向かわない場合は入院させる。

文献・風祭・向精神薬療法ハンドブック(1999)
文責 : 大平 洋

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Hyogo Pharmaceutical Society 兵庫県薬剤師会

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