母乳栄養

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兵薬界 No.581,2004年06月号
2004年 06月 01日
 これまでに母乳の栄養組成や乳児の消化器や腎、血液組成に与える母乳の影響、その吸収・利用状況などについて、人工栄養児と比較研究され、母乳の優秀性が示されてきた。特に初乳に含まれる各種免疫物質が乳児の腸管局所の受動免疫として、腸管系ウイルスや細菌の侵入を防ぐ重要な働きをしている。乳児は成長するにつれ、腸管粘膜での免疫物質の生産が強まり、能動的局所免疫に移行するが、それまでの間、母乳の果たす役割は大きい。


 母乳の分泌には様々なホルモンが関与する。卵巣から分泌されるエストロゲン、妊娠によって子宮内に形成された胎盤からのプロゲステロン、脳下垂体前葉から分泌されるプロラクチン、後葉からのオキシトシンなどである。


 エストロゲンとプロラクチンは乳腺組織の発育に関与し、プロラクチンとオキシトシンは母乳分泌に関与する。このプロラクチンとオキシトシンの分泌を促すものは乳児の吸啜作用で、乳房が空になるとそれが間脳に伝わって、間脳から脳下垂体に命令が伝わり、プロラクチンの分泌が起こる。また、オキシトシンも乳児の吸啜作用に刺激されて分泌される。このように両ホルモンの分泌には哺乳刺激が必須であり、従って、早期哺乳と哺乳の励行が重要となる。


 母乳は、分泌の時期により初乳、移行乳、成熟乳に区別される。妊娠末期から分娩後数日間に分泌される乳汁を初乳といい、分娩後約10日間で乳の性状が変わり、成分が安定した成熟乳となる。


 初乳は分泌量も少なく、組成も成熟乳と異なる。タンパク質と無機質は多いが、乳糖は少ない。このような特性は分娩後第1日目に多く、時日の経過と共に成熟乳に近付いていく。タウリンは中枢神経組織や網膜の発達に重要であることが示唆されているが、この物質は初乳中に多く含まれている。初乳のタンパク分画中に多い分泌型 IgA、ラクトフェリン、リゾチームなどが、新生児の感染防御に果たす役割は大きい。


 成熟乳の栄養組成は一定の値を示しているが、母乳が生後数ヶ月までの乳児にとって唯一の栄養源であることを考えれば当然であろう。分泌が助ェであれば順調な発育を示す。それ故、母乳は乳児にとって理想的な栄養バランスのとれた食物とみてよいであろう。

文献・水野・からだの科学 増刊号(2002)
文責 : 大平 洋

818 -5059
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Hyogo Pharmaceutical Society 兵庫県薬剤師会

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